深淵から見えた

白衣の堕天使。精神科→外科。

波の随に願って

 

私の大好きだった祖父は癌で亡くなった。

 

「家族と最期の夏を」

そう望んで

オピオイドで疼痛コントロールしながら

自宅で数ヶ月療養した

 

何の知識もない12歳の私が

祖父の背中にフェントステープを

貼っていたことを覚えている。

 

 

 

それから丁度10年が経った。

 

外科病棟で看護師として働いているが

たまにターミナルの患者さんを看る事もある。

 

そんな私は

恐らく、看護師人生で忘れられないような

出会いをした。

 

外科に配属されて2ヶ月になる頃

仕事が上手くいかず

病棟に行くのが嫌になっていた。

 

しかし、ある患者さんの部屋に行くと

心が楽になった。

 

その患者さんもまたターミナルだった。

 

恋人が昇進せず

結婚の話もできなくて焦っている時

励ましてもらった。

 

潜水艦にも汽笛がある事を初めて知った。

 

彼は自宅に帰りたがっていた。

 

私は彼を

祖父と重ね合わせていたのかも知れない。

 

拙い知識と技術で懸命に看護した。

 

何としてでも最期の希望を叶えたかった。

 

だが、それは叶わなかった。

 

ある冷たい雨の降る日の早朝

ついにその時が来てしまった。

 

進行していく病状で

苦しそうに笑う彼の笑顔が

目に焼き付いて消えない。

 

ああ、

祖父もこんな風に笑っていたのか。

 

名前だけの看護師なんて要らない。

 

知識も技術もない奴には誰も助けられない。

 

もっと知識があれば

技術があれば

然るべきタイミングで

彼を家に帰す事が出来た筈だ。

 

悔しさと申し訳なさで胸がいっぱいだ。

 

緩和ケアがしたい

もっと勉強したい。