深淵から見えた

白衣の堕天使。精神科→外科。

真っ白な病室の窓の向こうには

 

 

8月

 

待ちに待ったその日が来た。

 

真夏の精神病院

 

その日はいつも通りの時間に起きて

おめかしをして

「佐々木さん、調子が良さそうですね」

なんて看護師さんから

声を掛けられるくらいには

晴れ晴れとした表情をしていた。

 

15時くらいに病室に聞こえるくらいの

バイクのマフラーの音がして

私は病室から駆け出した。

 

面会票に戸惑いながら名前を書く

彼の姿が目に映る。

 

お盆休みを明けて

6時間もバイクを飛ばして

関西から会いに来てくれた

 

泣きながら電話した夜もあった。

 

私は彼に飛びつきたい衝動を抑えて

看護師さんに面会室の鍵を開けてもらった

 

面会室で

どうして私がこんな事になったのか

どうして私がこんな所にいるのか

そんなバカげた話をするでもなく

ただ冷たいコーヒーを飲みながら

他愛のない話をした。

 

1時間くらいだっただろうか

長くいる所でもない

彼は帰路につこうとした。

 

私は笑顔で見送ろう

心配させないようにと試みた

 

しかし、彼の手が頬に触れた途端

涙が溢れた。

 

面会室の中で誰も見ていないのが幸い

彼の胸で泣いてしまった。

 

 あの時手を差し伸べてくれなければ

私は這い上がれなかったに違いない

 

そんな年の瀬。