深淵から見えた

白衣の堕天使。精神科→外科。

ジキルとハイド

 

「もうしんどいんです」

 

巡視に来た看護師の私に

彼女は言った。

 

丁度、精神症状が悪化して来た

彼女に

何と言葉を返して良いか分からず

ただ話を聴く事しかできなかった。

 

たった、3ヶ月前の事だ。

 

 

 

8月11日

午前1時

私は精神病院の開放病棟にいた。

 

看護師としてではなく、

患者として。

 

何がどうなって

ここに立っているのか

訳が分からなかった。

 

ただ、自分の正中の静脈に

ニードルを刺して

4日で2,000ml血を抜いただけだった。

 

看護師が淡々と入院の説明をする。

 

全く頭に入らず、

「どこで人生間違えたのか」

それが頭の中を渦巻いていた。

 

 

 

入院して3日、

新しい主治医も決まり、診察も受けた。

 

「こんな事したら命が危ないって

看護師なんだから分かるでしょ」

 

と言われた。

 

「うるせえヤブ医者、

自業自得な事ぐらい承知だわ。」

 

何て、言い返す気力もなかった。

 

看護師を見ても、

患者を見ても涙が溢れた。

 

「数日前まで私も患者さんの役に立つ

看護師として働いてたのに」

 

看護師達が羨ましかった。

 

こんな状況に自分を陥れたのは

自分自身なのに。

 

診察室から暗い表情で出て来た私に

声を掛けてくれた看護師がいた。

 

私はその看護師に思いを打ち明けた。

 

心が少し軽くなった。

 

それと同時に、

「今まで自分は看護師として患者さんに

何をしていたんだろう」

と考えた。

 

もっと患者さんを観察していたら

もっと声をかけていたら

もっと患者さんの気持ちを考えていたら

 

自分の看護師としての未熟さと

驕りに気づいた。

 

今なら、

患者さんにもっといい看護が出来そうだ。

 

だから、今は一日でも早く

職場復帰をしたい。